2016-17シーズンのプレミアリーグのハイライトで、必ずと言っていいほど取り上げられるシーン。
それはアーセナルのジルーとマンチェスター・ユナイテッドのムヒタリアンが見せた「スコーピオンシュート」だ。
今回は二人が見せたスコーピオンシュートを振り返るとともに、この一風変わったシュートスキルがいかに再現が難しいものかということに注目したい。
スコーピオンシュートとは何か
スコーピオンシュートとは、体を前方に投げ出した状態で、かかとでボールを蹴るシュートを指す。
“I couldn’t miss this opportunity because I got a great ball from the God”
Mkhitaryan referring to Ibra’s scorpion goal assist. #MUFC‘s GOTY pic.twitter.com/gq8DvWxdAM— Jonathan Shrager (@JonathanShrager) 2017年5月19日
この姿がまるでサソリの尻尾でボールを蹴り込むように見えることから、スコーピオン(サソリ)シュートと呼ばれるようになった。
この華麗なスコーピオンシュートは、体が地面から浮いた状態で、頭よりも高い位置にあるボールを蹴る「オーバーヘッドシュート」としばし比較される。
昨シーズンのゴールハイライトでは、ジルーとムヒタリアンのシュートに並んで、リヴァプールのエムレ・ジャンの見事なオーバーヘッドシュートも繰り返し取り上げられた。
This amazing overhead kick from Emre Can has won Liverpool’s Goal of the Season. pic.twitter.com/QXFgY8cuIN
— Mootaz (@Mootaz_LFC) 2017年5月9日
このように見る者を圧倒するオーバーヘッドシュートによるゴールは、フットボーラーの誰にとっても最高の栄誉だろう。
それは誰もが獲得できるシュートスキルでない、特別なテクニックの持ち主であることを証明しうるからだ。
だが、スコーピオンシュートはオーバーヘッドシュートと並んで、非常に難易度が高く、それに劣らないテクニックと希少性の証明となるのだ。
ムヒタリアンが見せたスコーピオンシュート
さて、マンチェスター・ユナイテッドのMFムヒタリアン(ドルトムント所属の香川選手の元同僚)が見せたスコーピオンシュートを振り返る。
2016年12月26日、マンチェスター・ユナイテッド対サンダーランドの一戦でのこと。マンチェスター・ユナイテッドの2点リードで迎えた試合終了間際、ムヒタリアンが衝撃的なとどめの一発をサンダーランドに見舞った。
このゴールを受けて英国の各メディアはこぞって賞賛の声を寄せた。英紙『ミラー』は「あのズラタン(イブラヒモビッチ / 昨季マンU最多得点選手)ですら目の前のシュートシーンを信じられなかったであろう」と紹介した。
ちなみにこのゴールは「オフサイドであった」との声もあったが、素晴らしいスコーピオンシュートの前に、判定が覆ることはなかった。
ジルーが見せたスコーピオンシュート
ムヒタリアンの衝撃ゴールのわずか1週間後のこと。今度はアーセナルのフランス代表FWジルーが見せたスコーピオンシュートを振り返る。
2017年1月1日(現地時間)に行われたアーセナル対クリスタル・パレスの一戦。アーセナルのエースストライカーであるオリヴィエ=ジルーが決めたゴールは、新年のイングランドに大興奮を巻き起こした。
このスコーピオンシュートを受けて、英国オンラインメディア『The Independent』は「歴史に残るシュート」として大絶賛。ジルー本人も「選手キャリア最高のゴール」として喜びをあらわにした。
一方でアーセナルのチームメイトの反応は意外にも冷静であった。アーセナルDFコシェルニーは「彼のゴールはラッキーだ。10回やって10回入るものでもない。ただ、彼はそれに挑んだのだから、素晴らしいゴールだよ」と、アーセナル公式サイトで言及した。
再現困難…スコーピオンシュートは最高難度の大技
二人のスコーピオンシュートによる偉大なゴールは目を見張るもので、誰が見ても珍しく、そうそう生まれるシーンではない。
このシュートを再現しようと、多くのフリースタイル・フットボーラー(テクニカルな足技やリフティングを得意とする人)たちがスコーピオンシュートに挑んだ。
以下で紹介するYoutuberはロンドンでもっとも有名なフリースタイル・フットボーラーの二人。彼らのYoutubeチャネルF2Freestylers – Ultimate Soccer Skills Channelは500万人以上の登録者数を誇る、世界的なフットボールYoutubeチャネルだ。
彼らは意気揚々と登場し、クロスボールからスコーピオンシュートを再現しようとした。
だがスコーピオンシュートがいかに難しいのかを証明するかのように、何度も失敗を重ねている。
そして動画の中盤以降でようやく成功シーンのハイライトが披露されている。
注意したいのが、ゴール前へのクロスはもちろんのこと、シュートシーンですらディフェンダーを置いていないということだ。彼ら二人は双方とも「どフリー」の状態でスコーピオンシュートを成功させているのだ。
二人はプレミアリーグのゲームの前座として、観客の前でパフォーマンスを見せるほどの技巧家だ。
そんな彼らでも妨害されることのない整った条件下でなければムヒタリアンやジルーが見せたスコーピオンシュートの再現はままならないのだ。
今季のプレミアリーグでも再現困難なゴールを
彼らフリースタイル・フットボーラーの再現技術は圧巻だが、やはりアーセナルDFのコシェルニーが語るように、フランス代表FWのジルーですらなかなか成し遂げられない得点パターンであった。
このような衝撃的なシュートシーンが「歴史に名を残す」としてサッカーの母国イングランドの各メディアを騒がせたのは、世界最高峰のプレミアリーグでの、世界的な選手たちによるワンシーンであるからだろう。
さて、2017 -18シーズンではどのような名場面が生まれ、ファンの間で語り継がれるのだろうか。
ジルーとムヒタリアンのゴールは堂々のスコーピオンゴール史に加えられた。
彼らのような勇敢で華麗なスコーピオンが今季のプレミアリーグのピッチにも登場し、再現困難なゴールが数多く披露されることを期待したい。