【特集】砲撃手”ガナーズ”の愛称で親しまれるアーセナルのクラブ史

アーセナルのエンブレムには大砲が刻まれている。その大砲が刻んできたのは、プレミアリーグ優勝13回、FAカップ優勝13回という偉大な勝利の歴史そのものだ。立ち上げから苦難の時期を乗り越え、4度の黄金期を味わったアーセナル。一体どのような足跡をイングランド=ロンドンの地に刻んできたのであろうか。

王立兵器工場から生まれたフットボールチーム

アーセナルの本拠地はロンドン南東部ウーリッジ地区。1886年、この地区にフットボールチームが結成される。現在もアーセナルが「ガナーズ」(砲撃手)の愛称で親しまれているのは、軍需工場の労働者がクラブ創設の主体となったためである。

当時のチーム名は「ダイアル・スクエア」。プロチーム化を契機に「ウーリッジ・アーセナル」と名称を変え、2部リーグへと参戦。1920年代に至るまで2度の降格と昇格を繰り返したが、その後は現在に至るまで1部での戦いを続けている数少ないチームだ。

ちなみにアーセナルのライバルチームは同じトップ6の一角であるトッテナムであり、両チームの対抗意識はとても激しい。このライバル関係が生まれたのは1919年である。2部リーグのシーズンを5位で終えたアーセナルは、上位のトッテナムを差し置いてなぜか1部リーグへと昇格を果たす。これにトッテナム側が激怒したのは言うまでもない。「不可思議な昇格劇」は各方面から様々な指摘があり、アーセナルが不正を働いたとする意見が強かったものの、真相はわかっていない。

「ガナーズ」が味わった黄金期と停滞期

アーセナルの成長はクラブ史を見直しても比較的安定しており、4度「名将」と呼ばれる監督との出会いに恵まれた。

アーセナルを1930 – 1931シーズンにリーグ初優勝へと導いたのははハーバード・チャップマンという人物。この男がもたらした指導法や補強策はアーセナルの変革を大いに促した。彼が退いた後も、この改革が1930年代終盤の第二次世界大戦までに3度のリーグ優勝と2度のFAカップ優勝へと導いたのであった。これが最初の黄金期である。

大戦終了後もアーセナルは成長を続け、1947 – 48、1952 – 53シーズンに2度のリーグタイトルを獲得。トム・ウィタカー監督のもと、1950年代前半にはプレミアリーグにおける強豪の地位を確立した。これが2回目の黄金期だ。しかし、1部リーグには残留し続けたものの、20年近くもの間、まったくと言っていいほどタイトルに恵まれない暗黒期が「ガナーズ」を苦しめたのである。

3、4度目の黄金期とベンゲルの改革

こうした流れの中、1980年代にはジョージ・グラハム監督のもと3度目の黄金期を迎えた。チームは1986 – 87シーズンのリーグ優勝からカップ戦でタイトルをとり続け、長らく待ちわびた黄金期に酔いしれたのであった。しかしジョージ=グラハム氏の解雇を受け、アーセナルはその勢いを失なってしまうのではと思われた。

そしてベンゲル監督が登場する。彼は1996年に就任して20年以上チームを率いており、クラブに4度目の黄金期をもたらした。2003 – 04シーズンではチームをリーグ無敗優勝へと導き、その手腕や規律体制は他のクラブにも大きな影響を与えたと言われている。

ベンゲルは当時までのイングランドフットボールチームの伝統であった、力強さとスピード偏重のスタイルを改革した。戦術家の彼は技術とコンビネーションをベースとした、緻密なパスサッカーを標榜あれよあれよとプレミアリーグを席巻したのである。

余談だがテクニカルなパスサッカーという戦術ポリシーはバルセロナとも通じる部分があるとも言われる。その主張の根拠に元フランス代表のティエリ=アンリや、セスク=ファブレガス(バルサ出身)といった面々がバルセロナに渡った事実が挙げられる。一方でバルセロナからはチリ代表のアレクシス=サンチェスを受け入れるなどしている点も、その主張を部分的に補強している。

ベンゲル体制の今後と古豪の復活をかけて

しかしながらベンゲル体制も2000年代後半からは苦しい時期を過ごしている。1部リーグで闘い続けているとはいえ、強豪の一角となった近年のクラブ史のなかでは、サポーターにとって「ものたりないシーズン」に映っているに違いない。

最近ではリーグのタイトル争いからは遠ざかり、ベンゲルの「長期政権」は毎年のように厳しい目にさらされている。いよいよ契約満了が近づき、2016 – 17シーズンもリーグ優勝の道が断たれた今季終盤でのこと。アーセナルはFAカップ優勝を成し遂げ、3季連続のFAタイトルを獲得した。

このFAカップ3連覇がベンゲルにもたらしたのは2年の契約延長であった。しかしながらチャンピオンズリーグ出場権のない2017 – 18シーズンに向けて、主力メンバーの流出も危惧されており、またもや苦難のシーズンとなる恐れもある。有望な若手を安価に引き入れる獲得方針だけでなく、大胆な即戦力の補強にも注目だ。

「ガナーズ」の誇り高き戦将史をつむぐために

軍需工場の「ガナーズ」たちが作り上げたフットボールクラブ、アーセナル。

この王立軍需工場は1600年代から長きに渡る歴史を持ち、フランスとのナポレオン戦争はもちろん、クリミア戦争や第一次世界大戦においても重要な役割を演じていた。その歴史の中、1800年代後半に労働者がコミュニティを形成するにいたり、スポーツ活動の展開へと波及していった。アーセナルのクラブの歴史は他のクラブと比較してもとりわけ英国の近代史と密接なものとなっているのである。

2017 – 18シーズン、ガナーズの砲撃はロンドンを、そしてイングランドを震え立たせるのであろうか。アーセナルの来季のチャンピオンズリーグ出場権獲得は必須であり、ベンゲルの功績や彼に対する印象を大きく変えうる最後の2シーズンが、いま始まろうとしている。